新春講演会講演要約

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2015年1月20日に開催した「国際モダンホスピタルショウ2015」の開催説明会とともに実施した、経済産業省 商務情報政策局ヘルスケア産業課総括補佐 梶川文博氏による新春講演会は200名にのぼる聴講者が参加、大変な盛況でした。
以下はその講演内容の要約です。(文責:事務局)


 

shkoen_02健康寿命延伸産業の育成について

 

 

 

経済産業省 商務情報政策局ヘルスケア産業課

総括補佐 梶川文博氏


 

I .政府全体における検討状況

 

■ 医療費の3分の1が生活習慣病
 わが国では高齢化が進行する中、国民医療費は毎年増加しており、平成24年(2012年)度には39兆内を突破、平成37年(2025年)度には約60兆円に達する見込みである。国民医療費のうち、医科診療医療費の約3分の1は生活習慣病関連が占めている。この部分は、公的保険外の予防・健康管理サービス産業(「健康寿命延伸産業」)を積極的に創出することにより、医療費の適正化につなげられる分野であろうと考えている。
 医療制度そのものをどのようにしていくかについては厚生労働省が検討を進めていて、経済産業省としてはこうしたことを踏まえながら生活習慣病を含め医療費を適正なものにしていくために新しい予防サービスビジネス創出などを目指していくことが必要であろうと考え政策展開を図っている。
 若いうちはあまり公的医療保険の世話にならずにいたが、年齢が上がってくるにしたがって医療費も上がってくるのが現状だ。慢性期医療(生活習慣病関連)にかかる医療費は約10兆円、こうしたことを考え今後どのように対応していけば、公的保険外のサービスを活用した予防・健康管理により早くシフトさせることができるかを考えている。

■公的保険外サービスへの期待
 例えば糖尿病予防の場合、糖尿病の重症化が進むと年間約500万円の医療費と週3回の透析が必要となり、生活の質も大幅に低下する。これを透析しなければならない状態、すなわち重症化に至らないように、あるいは通院治療を続けなければならないという段階に至らないようにする、そのためにはどうしたらよいかを考えていきたい。当然健常者に対しても日々の健康管理や生活習慣病予備軍の人に対する生活習慣の改善といった支援の拡大ということもあり、また重症化予防サービスの充実という面で、公的保険外の運動とか食事指導サービスをしっかりと提供していくことによって透析にまでいかないようにすることが見込まれる。こうした活動によって医療費そのものが上がらないようにすることが可能であろうと考えている。

■これまでの政府内の検討状況の流れ
 そこでこれらの課題に対して、これまで政府内でどのように検討がすすめられてきたかを振り返ってみよう。平成25年(2013年)6月に閣議決定された日本再興戦略の中に、健康寿命延伸産業の育成、予防・健康管理の推進に関する新たな仕組みづくりが書き込まれた。この具体策検討のため産業競争力会議が設立され、さらに平成25年(2013年)12月に次世代ヘルスケア産業協議会が設立された。ここには官のメンバーだけでなく医師、食品会社、医療機器メーカー、フィットネス事業者などにも加わってもらい、具体的な政策展開をどのようにしていったらよいかについて検討してもらった。ここで平成26年(2014年)6月に中間とりまとめとして、「国民の健康増進」「医療費の適正化」「新産業の創出」の同時実現を目指し、グレーゾーン等の事業環境の整備、健康製品・サービスの品質評価の仕組みの構築、産業界の健康投資促進に向けた方策等のアクションプランがまとめられた。この内容はほぼそのまま日本再興戦略改訂版に、公的保険外サービスの活性化に関する具体的な政策として盛り込まれ閣議決定された。さらに、平成26年11月には、地方創生の流れの中でヘルスケア産業の地方展開の取組方針(「地域でのヘルスケアビジネス創出に向けた取組方針」)も策定した。これらは平成26年(2014年)12月のまち・ひと・しごと創生総合戦略の中に盛り込まれた。

Ⅱ .次世代ヘルスケア産業協議会

■新産業創出による一石三鳥の実現
 次世代ヘルスケア産業協議会は当面の課題に関し、3つのWGを設置して具体的施策を検討している。特に地域におけるヘルスケア産業の創出について、地域創生の総合戦略とも連携しつつ、日本再興戦略のさらなる改訂に向けて具体策を検討している。WGは当初、事業環境WG、品質評価WG、健康投資WGの3つであったが、現在では前者2つをまとめこれを新事業創出WGとして2つのWGで構成、検討を重ねている。
 次世代ヘルスケア産業協議会の検討の視点のひとつに需給両面の対策がある。ヘルスケア産業を含む健康・医療分野は、成長戦略の重要な柱のひとつとして、市場や雇用の創出が見込まれる分野であり、このため国民の健康増進、医療費の適正化、新産業の創出の一石三鳥の実現を目指すことが重要である。具体的には、需要と供給の好循環を生み出す視点に基づき、供給面では公的保険外のヘルスケア産業の創出を図ること、さらに需要面でも企業・健保等による健康投資の促進を図ることが協議会の大きな視点と言える。
 いくつかのアクションプランのうち具体的に進捗しているものがあるので紹介する。産業競争強化法ができ、事業者があるビジネスを始めたいと思ってもそのビジネスがある法律に触れるかもしれない、というグレーゾーンがある場合がある。このグレーゾーンの解消には医療周辺分野でビジネス参入したいと思う事業者からの照会がとくに強い。そこで事業を推進する経済産業省と制度を所管する側の所管官庁との間で話し合い、いくつかの事例について解消を図ってきた。

●グレーゾーン解消制度を活用し解消した具体的な事案の実施済内容例
1).スポーツクラブにおける運動指導<(株)コナミスポーツ&ライフ>
 →医師法などに違反しないことを確認(2014年2月26日)
2).自己採血による血液の簡易検査(測定)とその結果に基づく健康関連情報の提
供<健康ライフコンパス(株)>
 →医師法・臨床検査技師法などに違反しないことを確認(2014年6月20日)
3).企業と保険者が連携した健診・レセプトデータの分析結果に基づく受診勧奨
サービス、<(株)日本医療データセンター>
 →個人情報保護法などに違反しないことを確認(2014年7月30日)
4).医療機関と民間事業者の情報共有による複合的な健康・生活支援サービスの
提供<(株)gentlus>
 →個人情報保護法などに違反しないことを確認(2014年7月30日)
5).スポーツクラブ等における採血健康診断事業の際の代理人による診療所開設
届出<(株)メデカルアシスト>
→医療法、保健師助産師看護師法などに違反しないことを確認(2014年9月29日)
6).スポーツクラブ等における採血健康診断事業の際の採血時のタブレットによ
る医師の指示<(株)メデカルアシス卜>
→医療法、保健師助産師看護師法などに違反しないことを確認(2014年9月29日)
7).医師による健診・レセプトデータの分析結果のみに基づく判断による受診勧
奨の実施<(株)日本医療データセンター>
 →医師法などに違反しないことを確認(2014年10月30日)
8).治療費補償付予防メインテナンスサービス提供<(株)オーラルケア、98%歯を
守る予防共済会>
 →健康保険法に違反しないことを確認(2015年1月8日)
9).医師による食事箋発行と連動した配食サービス<日清医療食品(株)>
 →介護保険法などに違反しないことを確認(2015年1月9日〉

 ●地域ヘルスケア産業支援ファンドの設立
 もうひとつの事例であるが、新しい事業を供給する側に資金の需要がある。そこで政府系の(株)地域経済活性化支援機構(REVIC)が、平成26年(2014年)9月、地域ヘルスケア産業支援ファンドを創設し、新たなヘルスケア事業の支援に努めている。同ファンドには多くの地銀なども出資、地域のニーズに速やかに対応し出資および経営人材を派遣するなど好評である。

 ●健康経営・健康投資の推進
 需要面での例としては、厚生労働省が健康保険組合に対しデータヘルス計画の作成への取組みを求めている。この動きを踏まえ、経済産業省としても、企業と健保の連携により「健康経営・健康投資」を推進して欲しいと考え、平成26年(2014年)年10月、企業経営者層向けに「健康投資ガイドブック」を公表、同時に、厚生労働省も健康保険組合向けに「データヘルス計画作成の手引き」を公表した。さらにこのような健康経営、健康投資を経営の課題として積極的に取組んでいる企業に対しては、東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を選定することを検討している。平成27年(2015年)3月をめどに、社員の健康増進に積極的な企業を選定、公表する予定でいる。

 ●サービス品質の見える化
 さらに平成27年(2015年)4月からは、日本規格協会が「健康・運動サービス事業者」のサービス利用者への高品質なサービスが提供されるよう、その見える化を行う第三者認証事業が本格的に開始される。平成26年(2014年)度は、経済産業省の委託事業で評価のためのフレームワーク作りを行っており、2月には試行的に約10店舗に対して認証を付与する予定である。健康づくりのためにがんばる、のではなく楽しいことをしているうちに自然に健康になるという、誰もが願う健康運動サービスを提供する事業所を認証するという新たな制度の構築に向けた認証モデル事業である。

Ⅲ.今後の地域でのヘルスケア産業創出の取組み

■「取組方針」策定の背景
 現在、国では活力ある地方をどのように作っていくかが議論されている。ヘルスケア産業はとくに地域に密着した産業であるので、こうした地域での取組を支援していくこともやっている。
 平成26年(2014年)度の国の地方創生総合戦略が策定された後、平成27年度には都道府県、市町村がそれぞれの総合戦略を策定する。さらに都道府県では平成27年(2015年)度に、将来の医療提供体制に関する構想(「地域医療構想」)を策定、また市町村も平成37年(2025年)の「地域包括ケアの構築」に向けて、平成27年(2015年)度から新たな「介護保険事業計画」を実施する予定である。どういう公的保険外のニーズが起こってくるかについては、地域によって既にある程度見えてきているようだ。そうしたところには民間企業に入ってきてもらい、これらの事業を育てていこうと考えている。

 ■ 食・農・観光等の地域産業との連携
 まずは厚生労働省が進める「地域包括ケアシステム」の構築を踏まえ、さらにこれを補完する形で、運動・栄養・見守り・買い物支援等の医療・介護周辺サービスを、グレーゾーン解消制度等を活用し「公的保険外サービス」として創出する。さらに、医療・介護関係者や公的保険外サービス提供者が、農水省や観光庁と協力して、農業・観光等地域産業と連携して新たなヘルスケアビジネスを創出する、そうすることにより地域の経済活性化と医療費適正化を図ろうというのが基本的な方針である。
 具体的には健康・予防と食・農や観光を掛け合わせることによって、地域における持続的なビジネスの創出とか、地域の高齢者の活躍やコミュニティの活性化を図ることが大きな考え方である。これはその地域の中だけの話ではなく地域外からどのように人を呼び込んでくるか、また日本の「健康長寿」ブランドを活用しながら海外からの需要を作り上げる、といった大きい展開も含め支援していきたいと考えている。
 地域のヘルスケアビジネス創出といっても、そこには多くの課題がある。課題のひとつは公的保険外サービスを創出するには、公的保険との役割分担を規律できる、医療・介護事業者、自治体等との連携が必要だが、現状では地域のビジネスとして成立しうるモデルが共有されておらず、関係者が集う“場”も少ないという点である。課題の2つ目としては新たな事業を立ち上げる際の地域人材が不足していること、3つ目は資金である。地域の事業者は中小・零細が多く、なかなか資金投入されないということがある。4番目の課題としては、ヘルスケアサービスとして活用しうる食や観光などの地域資源があっても、それらが有効につながっていない、うまく連携していない点があげられる。

 ■ 地域のヘルスケアビジネス創出
 これらの課題に対して、各自治体と多様な関係者が集まって協議会をつくり地域でできることは地域で進めながら、国としても資金の面、人の面、需要環境の整備、規制緩和などを進めていきたいと考えている。これらを踏まえ平成26年(2014年)11月、次世代ヘルスケア産業協議会において「取組方針」というものをまとめた。その基本的な考え方は、地域の自発的取組みを国が環境整備を行うことで支援し、成功事例を全国に普及させビジネスを創出しようとするものである。その基本的なビジネス創出のイメージとしては、①地域包括ケアシステムの補完として、公的保険外サービスの運動・栄養・見守り・買い物支援等の医療・介護周辺ビジネスを創出するとともに、②さらに食・農・観光等の地域資源を活用し、医・農商工連携やヘルスツーリズムなどの新たなビジネスを生み出す、といった新たなヘルスケアビジネスの創出である。
 こうした新しいビジネスはある程度、意図的にパイプラインのようなものを作っていかないと生まれないのではないかと考え、大きく3つのフェーズに分けて成長段階毎の取組を促進していくことについて議論していくのが良いのではないかと考えている。まず1)としては地域にどういうヘルスケアのニーズを抱えているか、そしてどこにその担い手がいるか、そのうえで次に2)として、こういうビジネスをやりたいと思えばモデルの策定や実証をし、最後に3)としてこのビジネスがまわるとなれば、実際に立ち上げの支援を行っていく。

 ■ 地域における具体的な展開のあり方
 平成27年(2015年)6月の成長戦略のまとめに向けて具体策を練ることにしている。第一に、ヘルスケアビジネス創出に積極的な先進自治体と連携して、地域版協議会を活用した具体的情報交換や協力関係の構築を行い、それらの成功事例を全国に展開していこうとしている。次に、今後は各地自治体で策定する地域版「総合戦略」に、ヘルスケアビジネスを位置づけてもらい、各地域で積極的な展開を期待している。加えて、地域の金融機関や経済団体、医師や管理栄養士等の専門人材にも協力していただきたいと思っている。さて、それではこうした取り組みが具体的に自治体で動いているところがあるのか、ということだが、既にいくつかが展開されている。

●主な地域における保険外サービス創出に向けた動き
   ○松本地域健康産業推進協議会
  (http://www.city.matsumoto.nagano.jp/kurasi/sigoto/syutokaigi/matsumoto_tiiki_kenkousangyo.html)
   ○群馬がん治療技術地域活性化総合特区地域協議会
      (http://www.g-sangyo.pref.gunma.jp/?p=54)
   ○大阪市都市型産業振興センター(http://www.toshigata.ne.jp/)
   ○北海道ヘルスケアサービス創造研究会(http://www.hcs-hokkaido.net/)
   ○新ヘルスケア産業フォーラム(中部)(http://www.nhc-forum.com/)
   ○四国の医療介護周辺産業を考える会(https://www.switch-co.jp/)
   ○九州ヘルスケア産業推進協議会(http://hamiq.kitec.or.jp/)  ほか

IV.健康投資・健康経営についての取組み

 ■ 健康経営・健康投資とは
 経済産業省では現在、健康寿命延伸に貢献するヘルスケア産業を成長・発展させるために、企業や保険者による健康経営・健康投資の取組促進を図っている。従業員の健康保持・増進に取り組むことは従業員の活力向上や生産性向上等組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが期待される。これらを長期的なビジョンに基づいた経営的視点から捉え戦略的に実践し具体的に取組んでいくことを期待したいと考えている。
 こうした生産性向上の面からだけでなく、今日生産年齢人口が減少していく中、企業にとっては優秀な人材の確保・定着が経営上の大きな課題だが、健康経営・健康投資に取り組んでいくことによって、こうした課題を解決していくことも期待されている。さらにこうした動きは資本市場においてもサブプライム・ローン問題に端を発した世界金融危機の反省から、企業の非財務情報を重視し、長期的な企業の将来価値や株価を判断するESG投資(※)という投資方法が拡大している。とくにESGでいくと従業員の安全性とか健康とかをその企業が考えているかということが投資家のひとつの指標になってきている。
※ESG投資=Eは環境(Environment)、Sは社会(Society)、Gは企業統治
(Governance)。企業が事業活動を展開するにあたって配慮や責任を求められる課題。資産運用の世界では企業の投資価値を測る新しい評価項目として注目を集めている

 ■ 経済産業省の取組み
 経済産業省としては、まずは上場企業を対象にして、①.健康経営銘柄の設定、②.企業による情報開示の促進、③.企業の健康投資ガイドブックの策定・公表、という3つの取組みを行っている。
 まずはじめの「健康経営銘柄」の設定についてであるが、これは従業員の健康に関する取組について優れた企業を健康経営銘柄として選定し、投資家にとって魅力ある企業として紹介しよう、とするものである。この場合の評価についての基準であるが、第1に経営理念等のなかにはっきりと健康投資の姿勢を打ち出しているか、第2にそれをしっかりと支える組織体制ができているか、第3はその体制があったうえできちんと実行していくことができているか、第4がそれらを評価し改善していく、ということを大きな指標と捉え、加えて第5として当然ではあるが法令遵守についても見ていくことになる。
 企業による「情報開示」の促進については、日本再興戦略2014に『「コーポレート・ガバナンス報告書」やCSR報告書等に「従業員等の健康管理や疾病予防などに関する取組」を記載』するという方針が書き込まれており、今、具体策を検討している。
 そして、『企業の「健康投資」ガイドブック』の策定・公表であるが、このガイドブックでは、わかりやすく「健康投資」の概念を提示し、企業業績へのメリット等を提示して、社内環境整備や全体枠組みとしての実践方法等をどのようにつくり進めていくか、を企業経営者に理解していただくことを目指し取組んでいる。
    ※詳細=『企業の「健康投資」ガイドブック』(経済産業省ヘルスケア産業課) 
(http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/jisedai_healthcare/kenkou_toushi_wg/pdf/004_04_02.pdf)